槍ヶ岳北鎌尾根に必要な登山の力量とそれを向上または補う策について

槍ヶ岳北鎌尾根にチャレンジしたい、という方がいらっしゃいました。

槍ヶ岳北鎌尾根を歩いた者として、槍ヶ岳北鎌尾根の登山を振り返り、必要だと感じた登山の力量とそれを向上または補う策について書こうと思います。

北鎌尾根独標から眺める槍ヶ岳
北鎌尾根独標から眺める槍ヶ岳。

本記事の構成は以下のとおりです。

  • 槍ヶ岳北鎌尾根とは
  • 北鎌尾根が難しいポイント4点
  • 北鎌尾根登山に求められる力量とそれを向上または補う策

槍ヶ岳北鎌尾根とは?

その名の通り、北方から槍ヶ岳へと至るクラシックなバリエーションルート(バリエーションルートとは、整備された登山道ではないルート。多くの場合、ロープが必要とされるような危険箇所があります)。
日本でも有数の高難易度なルートであり、有名な登山家である加藤文太郎(新田次郎『孤高の人』)、松濤明(『風雪のビバーク』)が遭難したルートとしても有名です。そういった登山の歴史面においても、憧れる人は多いでしょう。

また、尾根を進むに連れ、最終地点である槍ヶ岳の大槍がどんどん近づいてくる点もアルプス登山の浪漫に溢れています。

北鎌尾根が困難とされる理由

槍沢大曲:北鎌尾根へ向かう登山者への注意書き

北鎌尾根が困難とされる理由はいくつも考えられますが、下記4点の組み合わせが大きいでしょう。

  1. 高いルートファインディング能力が求められる
  2. 高い体力が求められる
  3. 登攀が必要になる(こともある)
  4. エスケープが非常に困難

北鎌尾根が困難とされる理由1. ルートファインディングが求められる

独標を眺める。

ルートファインディング(適切なルートを見つけること。「ルーファイ」と略されます)の難しさが第一と考えています。
北鎌尾根はバリエーションルートということで、道標もなく岩にペンキで印が書いてあるわけでもなく、テープもありません(私が行った時にはなぜかピンクのテープが張ってありましたが、それも信頼して良いものではありません。北鎌尾根にチャレンジした登山者が、撤退時の目印のために張ったものかもしれません。それであれば安全のために仕方ないと許容はできますが、個人的には北鎌尾根を登るという”浪漫”を傷つけられたと感じました)
ルートファインディングは、通常ルートの登山と同じように、GPSアプリを含め現在地を把握する、地形図を読む、ということはもちろんですが、それに加えて必要なのが、地形を読む、踏み跡を読む、ということです。地形を読む、踏み跡を読むということは、バリエーションルートを歩く上では非常に重要なスキルです。

ただし、踏み跡を辿ったとしても、その踏み跡が正しいとは限りません。踏み跡の先を読むなど、現場では高い観察眼が要求されます。

晴天であれば良いのですが、ガスや雨の天候により、先を見通せず、ルートファインディングはより困難になるでしょう(私の時は困難になりました…)

ルートファインディングが求められる箇所が少ないならばそこまで苦労はしませんが、北鎌尾根では全体の工程の大半でルートファインディングが求められます。

北鎌のコルに到着。晴れていたため、北鎌沢出合からコルまでよく見えた。

北鎌尾根が困難とされる理由2. 高い体力が求められる

体力面では、3,000m級の空気の薄さの中、岩稜帯かつ急傾斜の道で12時間程度の行動となります。
装備の重さとしては、登攀用具(最低限、エスケープ時に懸垂下降ができる程度の装備はあると良いでしょう)、ビバーク装備、予備も含めて2日分の食料(非常食)と3リットル程度の水を持ち上げる必要があります
前述の通り、ルートファインディングに失敗するとより険しいルートを行くことになり、更に体力は消耗します。また、疲れてくると集中力が落ちるため、ルートファインディングも間違えやすくなるでしょう。体力は大事です。

北鎌尾根が困難とされる理由3. 登攀が必要になる(こともある)

ルートファインディング次第ですが、いくつかクライミング要素が求められる箇所が出てきます。簡単なアスレチック程度になるのか、難しいクライミングになるのかは、ルートファインディング次第。上手く道を見つけられれば比較的簡単なアスレチックで済みます(ただし、荷物を背負っての行動ですので体力は消耗しますし、難易度は高くなくとも落ちたら死、良くても大ケガ、という箇所が多いです)。

ルート選択によっては、ロープを出したり、懸垂下降が必要になることもあるでしょう。当然ロープを出すことも時間のロスに繋がるため、メンバーの技量に応じて、ロープを使う・使わないの判断も必要です。

私の時は多少の難所であってもロープを出さずに突破できましたが、それもルートファインディングが”たまたま”うまく行った結果論かもしれません。

北鎌尾根が困難とされる理由4. エスケープが非常に困難

北鎌尾根は簡単にはエスケープできません。

アクシデントが発生した場合、槍ヶ岳山頂まで歩き通すか、撤退するか。撤退するには沢まで600m近く降りた後、再び水俣乗越や大天井岳への急登を登り返す必要があります。

撤退するということは、北鎌尾根、北鎌沢の急斜面を下るということ。この下りには転倒・滑落の危険が伴います。

水俣乗越から望むガスの天井沢。北鎌沢出合はここから500mほど下ったところ。撤退の場合は、ここを登り返す。

ルート情報や山小屋の人による説明

北鎌尾根の詳細なルート説明は色々な人がブログやヤマレコでアップしているためここでは割愛しますが、ヤマレコの下記のルート説明は適切な経験と力量をお持ちの方が書いているので信頼して良い内容です。ロープを使っているのは安全側に倒すためでしょう。

【令和最初の夏山特集~後編】槍ヶ岳北鎌尾根 | 登山ルートガイド – ヤマレコ

大天井ヒュッテの方が北鎌尾根について記事を投稿なさっています。その中から2018年の記事を引用します。

北鎌尾根を目指すなら、体力はもちろん要りますが何よりもルートファイディング(登れる場所か、登れない場所か?を見極める能力)を自身の経験によって身に付けた登山者のみが、登る事を許される場所であるという事を再認識して下さい。本当に登りたいと思うならもっと多くの経験(登山道を歩くだけの登山では駄目、沢登りや岩登り等の登山道ではない山行を何度も繰り返す事)を積んだ上で初めて北鎌尾根にチャレンジできる資格があると思って下さい。

北鎌尾根への警鐘 | 大天井ヒュッテスタッフブログ – 槍ヶ岳山荘グループ

北鎌尾根では体力・技術は当たり前、とにかく必要なのがルートファインディング能力

北鎌沢出合より上は、とにかくルートファインディングが要でした。
私は所属する山岳会の2人との3人パーティでチャレンジ。他のメンバーが北鎌尾根経験者ということで、私が先頭を歩かせてもらいつつ、私が道に迷ったらメンバーに他のルートを探してもらうという分担で乗り切りました。

「この道間違えたな」と思いつつ戻るのもリスクがあるため、メンバーには別の道を進んでもらいつつ、自分はロープなしの登攀で無理やり突破した箇所も何箇所か…。

後から追いついてきた単独の登山者は2回迷ったとのこと。その人は数年前にベテランと共に北鎌尾根を歩いたことがありましたが、その経験があったとしても道を見つけることは困難だったようです。

ということで、ルートファインディングについて対策を考えてみます。

ルートファインディングのスキルを高める、あるいは、補う案

さて北鎌尾根で重要なルートファインディングのスキルを高める、あるいは補う方法としては下記が考えられます。

  1. バリエーションルートの経験を積む
  2. 複数人で行きルートファインディングを手分けする
  3. 力量のしっかりとした北鎌尾根経験者や、プロのガイドと登る

1. バリエーションルートでも特にマーキングなどの少ない箇所で踏み跡を見つける経験を積むと良いでしょう。バリエーションルートと言うと低山にもありますが、北鎌尾根と低山では植生・地質が異なるため、アルプスのバリエーションルートが適切でしょう。アルプスのバリエーションルートとなるとほぼ登攀・懸垂下降が必要となりますが。

2. 単独行ではなく、パーティで行きましょう。

私が登った時には可能な限り先頭を歩かせてもらいましたが、踏み跡が細くなり「おかしいぞ…?」と思った時には後続のメンバーに声をかけて別のルートがないか調べてもらいました。

これが1人であれば、道が怪しくなったら戻って別の道を探すことになり、時間と体力と精神力を消耗することになります。パーティであれば、先頭は荷物少なめでルートファィンディングに注力してもらう、などの対策も可能です。

3. 上記2点を書いてきましたが、理想としては経験者と登ることです。しっかりとしたプロのガイドであればなお安心です。登攀や岩場での技術が不安な方は、ガイドによっては北鎌尾根を目指すための事前練習としてクライミング講習も組み合わせていますので、そういったガイドに学ぶのも良いでしょう。
私のように、北鎌尾根経験者とともに歩きつつ、先頭を歩かせてもらう、というのは比較的安全なチャレンジと言えます。

北鎌尾根は浪漫あふれるルート。余力を持ってチャレンジして無事下山を。

私個人としては、北鎌尾根を歩いたことは大きな経験となっています。ルートファインディング、体力、岩場の突破、長い工程と、それまでの登山経験の総決算とも言うべき山行でした。

北鎌尾根にチャレンジしたいという方には、ぜひ多くの情報を調べて、トレーニングを積んで、無事に下山していただければと思います。


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